2023.5.10wed
春にお出かけしたくなる!ファッションが可愛い映画を3本ご紹介
すっかり暖かくなりましたね!晴れて心地の良い日は、特にお出かけしたくなりますよね。そんなうららかな春の日に、おしゃれして出かけたくなるような、ファッションに注目の映画をご紹介します。
CONTENTS
『さよなら退屈なレオニー』
一作目にご紹介するのは、『さよなら退屈なレオニー』です。
レオニーのひと夏の変化を描く青春ムービー。
カナダ・ケベックの海辺の街で暮らす17歳の高校生、レオニー。退屈な街を飛び出したくて仕方ないけれど、自分が何をしたいのかわからない。口うるさい母親もその再婚相手のことも気に入らなく、イライラした毎日を送っている。そんなある日、レオニーは街のダイナーで年上のミュージシャン、スティーヴと出会う。どこか街になじまない雰囲気を纏うスティーブに興味を持ったレオニーは、なんとなく彼にギターを習うことにーー。
ガーリーでメンズライクなコーディネートに注目。
ボーイズアイテムの着こなしが可愛い!フェミニンなアイテムとの掛け合わせや、個性的な色の組み合わせなど、真似したくなるコーディネートがたくさん出てきます。シーンごとに変化するレオニーのファッションは見ているだけでも楽しいです!
ティーンならでは焦燥感や閉塞感が繊細に描かれています。ひと夏を通してレオニーは何を思うのか・・・。カナダケベックの街の空気感も素敵です!
さよなら退屈なレオニー
- Prime Video、U-NEXTなどで配信中
- 2018年/カナダ/96分
監督/セバスチャン・ピロット
出演/カレル・トレンブレイ、ピエール=リュック・ブリアント、他
(C)CORPORATION ACPAV INC. 2018
『タイピスト』
次にご紹介するのは『タイピスト』です。
可愛くて爽快なサクセスストーリー。
1950年代フランス。都会暮らしに憧れて、田舎から出て来たローズは、保険会社経営のルイの秘書に応募。晴れて採用されるも、ドジで不器用なローズは、一週間で首確定に。「ただしーー」と、意外な提案をもちかけるルイ。ローズの唯一の才能であるタイプの早打ちを見抜いたルイは、彼女と組みタイプライターの世界大会で優勝するという野望を抱き、地獄の特訓が始まるーー。
50年代フランスらしい、レトロでキュートなファッションが魅力的。
オードリーヘップバーンのようなドレスやヘアスタイル!ローズのファッションを観ているだけで心がときめきます♡
カラフルだけど上品な色使いのアイテムや、たっぷり広がるフレアスカート。タイプライターの文字盤に合わせたネイルカラーまで可愛くて細かいところまでチェックしたくなります。
大会での白熱するタイプ早打ちシーンは見どころの一つ。
ローズとルイ2人の関係にも注目!
タイプ早打ち大会へ挑むローズを通して見える、
50年代フランス女性たちの時代背景も興味深いです。
タイピスト
- Prime Video、U-NEXTなどで配信中
- 2012年/フランス/111分
監督/レジス・ロワンサル
出演/デボラ・フランソワ、ロマン・デュリス、他
(C) 2012 – copyright : Les Productions du Trésor – France 3 Cinéma – France 2 Cinéma – Mars Films – Wild Bunch – Panache Productions – La Cie Cinématographique – RTBF (Télévision belge)(C) Photos – Jaïr Sfez.
『アンビリーバブル・トゥルース』
最後にご紹介するのは、『アンビリーバブル・トゥルース』です。
お洒落でユーモラスなラブストーリー。
ニューヨーク州の郊外にある住宅街、リンデンハースト。恋人の父親を殺し刑務所に服役していた“ジョシュ”が戻ってきた。車の修理の腕を買われたジョシュは街の整備工場で働き出す。工場の娘オードリーはミステリアスな雰囲気のジョシュに夢中になってしまう。オードリーは「この世は明日、核戦争や環境破壊で滅んでしまう」と信じている。しかし満たされぬ恋をしたオードリーは次第に変わっていくーー。
魅力を引き出すモノトーンスタイル。
オードリー演じるエイドリアン・シェリーがとにかく可愛い!大きな瞳と紅いリップ、ウェーブがかったブロンドの髪がお人形みたいでとってもキュートです。シンプルでクールめの洋服を合わせることで華やかな顔立ちがさらに映えて、とても素敵です♡
2人のキャラクターはもちろん、周囲を取り巻く人達もユニークで、観ていてほのぼのとした気持ちになります。映像もスタイリッシュなので、お洒落な世界に浸りたい方にもオススメです。
アンビリーバブル・トゥルース
- Prime Videoなどで配信中
- 1989年/アメリカ/90分
監督/ハル・ハートリー
出演/エイドリアン・シェリー、ロバート・バーク、他
©Possible Films, LLC
いかがでしたか?ぜひ一度作品をご覧くださいね。
今後も、映画プラスαの情報を、デザイナーミノグチの視点でお届けします。
【7/21より名古屋で公開】映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』デビュー30年の曽我部恵一さんにインタビュー!
今年、デビュー30年を迎えた「サニーデイ・サービス」。フォーク、ロック、ギターポップ、ヒップホップと、ありとあらゆる音楽を飲み込み吐き出し続ける変幻自在のロックバンド「サニーデイ・サービス」初のドキュメンタリー映画が7月7日(金)より公開されます。 1992年、曽我部恵一さんと田中貴さんらを中心に結成されたロックバンド「サニーデイ・サービス」。1994年にメジャーデビューし、翌1995年に1stアルバムにして日本語ロックの金字塔「若者たち」を発表した以降も、怒涛の楽曲制作、突然の解散、ソロ活動、インディレーベルの設立、再結成を経て活躍し続ける大人気のバンドです。また、本作を手がけるのは、カンパニー松尾さん。90年代から現在までをメンバー、関係者によるバンドの歴史や解説、選りすぐられた楽曲の初公開を含む新旧の貴重なライブシーンも織り交ぜた壮大なドキュメントロードムービーに仕上がりました。 昨年末にリリースしたニューアルバム『DOKI DOKI』のツアー真っ最中の曽我部恵一さんに2月24日(金)に開催された名古屋ダイアモンドホールライブ後に今の心境や本作についてお話を伺いました。 大げさかもしれないけど、幸せを感じられる時間にしたい ――昨年末にリリースされたニューアルバム『DOKI DOKI』。素直にまっすぐに、音楽というものの楽しさが伝わるアルバムではないかと感じています。 曽我部さん そうですね。それぐらいのシンプルなことですからね。曲を一生懸命やって聴いてもらうだけで、そこに他の意味はあんまりないです。とにかく一生懸命やるだけ。ただそれだけなんですが、その深さや難しさは、やりながらすごく感じています。 ――久しぶりの今回のツアー、手ごたえはいかがでしょうか? 曽我部さん 久しぶりのアルバムを出してのツアー。なかなか「完璧だった!」みたいな感じはなくて手探りですが、どうにか一生懸命やるしかないかと。音楽って何なのか、ライブってどういうものか、自分でも分からないです。どんなものがいいのかも分からないけど、お客さんは僕らの音楽が好きでライブにも来てくれる。どんな気持ちで歌うのが一番いいのかと考えながら、難しいけど、頑張りますって感じです。 歌えばいいというものではなく、お客さんと大事な関係性が生まれることをやりたい。でもそれって何だろう?幸せというと大げさだけど「生きていてよかった、生きているんだな、かけがえのない時間だったな」って、お客さんが感じてくれたらいいなと思います。 僕らは30年ぐらいやっているみたいで、30年前から聴いてくれている人もいます。その日々が色づいて、自分の人生とか、今日に至る全てのものが美しいと思える何か。自分たちもそうですが、そんなふうに思える夜になるのが一番いいと思っていて、それに向けてやっている。でもどうしたらそうなるのかは分からない。そうなればいいなと思っています。 時間じゃなく、物事ってどんな気持ちでやっているかが大切 ――先ほど「30年ぐらいやっているみたい」と仰いました。30年続けるのは、並大抵でできることではないのではないでしょうか? 曽我部さん 長くやったからどうというのは、あまり感じないですね。物事って、どんな気持ちでやっているかだと思うんです。例えば料理でも子育てでも、どんな思いでやっているかだと思う。長くやると慣れることはあるかもしれないけれど。 ――振り返ったら30年経っていたという感覚でしょうか? 曽我部さん あちこち行きながらやってきたので、一つのことに脇目も振らず打ち込んできたって感じはしないんです。普通の人の30年とあまり変わらないし、実はそこは意識してないですね。意志を持って続けるというより、ダラダラ続いていっている感じ。人生もそうじゃないですか?「生きるぞ!」って生きているわけでもないし。使命感も全然ないです。ファンの方々がいて、まだ聴きたいと言ってくれる人がいるからやれているという感じです。 キャリアというのは、僕は本当に何も思わないんです。その人がその仕事をどんな気持ちでやっているか、何をその作品に込めているかの方がよっぽど大事だと思う。30年間一つのことをやるってかなり難しいから、僕らも一度解散したり、メンバーが亡くなったり、そういう中で何とか続けている。続けようとも思ってなくて、結果的に何かやっているよねという感じですね。だから「何十周年」とかもやりたくないんですが、ちょうど映画があり、30年としました。 フラットな日常をありのままに撮ってくれました ――映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』をご覧になった感想はいかがでしょうか? 曽我部さん 僕は単純に「面白いなー」と思いましたね。客観的になれているかどうか分からないけど、飽きずに最後まで楽しめました。 ――どんなところにそう感じられたんでしょう? 曽我部さん 画がやっぱり、いい。見ちゃう。人の顔の撮り方、風景の撮り方。きれいだし、何だか観ちゃうんですね。うまいなーと思いました。 ――曽我部さんご自身もコアな映画ファンで、たくさんの映画をご存じだと思います。自分が被写体側になる感覚はいかがですか? 曽我部さん 全然ないです。普通でしたからね。お芝居をして俳優として映ると恥ずかしくて全然見られないんですが、ドキュメンタリーは普段のままなので何も違和感はなかったです。人が喋ったり動いたりするのは面白いので、そういう感じで観ました。そういうところをちゃんと撮っていたカンパニー松尾さんはすごいなと。 ――監督はカンパニー松尾さんとのことで、どのように始まった企画だったんでしょう? 曽我部さん 僕がサニーデイのライブ映像を1時間半くらいにまとめたものを自主制作し、スペースシャワーの高根さんに見ていただき「こういうのをちゃんとまとめてサニーデイのライブ映画にしたい」と相談したんです。そしたら「ライブ映画もいいけど、ドキュメンタリーにしませんか」と。そこで監督としてカンパニー松尾さんの名前が挙がり、「おお」と思いました。松尾さんは昔から知っていたし、サニーデイを聴いてくれているのも何となく知っていた。以前、川本真琴さんの仕事で一緒になり、松尾さんの仕事ぶりを初めて現場で拝見して、この人は自分のスキルを全て注ぎ込んで仕事をする方だな、すごいなと思っていたので「喜んで」ということになりました。松尾さんもやりたいと言ってくれたんですが、「僕でいいんですか?」とも言われました。AV監督だし、と。でも人間を信頼していたので「全然大丈夫です」と答えました。 ――カンパニー松尾さんは自分でカメラを回すスタイルの監督ですが、撮影中、何か印象に残っていることを教えてください 曽我部さん 最初に松尾さんと打ち合わせで挨拶した時に「曽我部さん、ドキュメンタリーなのでちゃんと内面を見せてくれますか?」と言われました。「いやいや、俺は全然見せますよ」と。そんなつもりはないんですけど、僕が内面を見せない壁のある人だと松尾さんは思っていたのかもしれない。内面の見せ方も、苦悩したり泣いたり、そういうことではないんじゃないかなと思ったので普段通りやっていました。松尾さんも深く内面を掘り下げるわけでは全然なかったです。 ――「ドキュメンタリーだから掘り下げるべき」ではなかったということですか? 曽我部さん そう。ドキュメンタリーというとすごく大それた感じで、人が泣きわめいたり苦悩を吐露したりするのも多い印象で、僕らもそうなるのかなと思っていたんです。でも全然そんなことなかった、ただフラットな日常。移動してライブして「そうっすねー」とか言っている感じ。本当にありのままを撮ってくれました。 カンパニー松尾さんが撮る、クールだけどキラリとした物語が見えるちょうど良い見せ方が好き ――「サニーデイ・サービス」とカンパニー松尾さんの相性のよさに驚きました。それぞれの世界がとてもうまく溶け合っていると感じます。 曽我部さん そうでしょ?松尾さんも僕らに「あっ、監督が来た」とか思わせない。リラックスして僕らがそこにいるのを撮っているだけで、身構えなくてもいい空気を作ってくれました。画には物語をことさら入れない。でも、物語がないわけじゃない。その塩梅がすごく僕の好きなところです。説明が多いものや情緒過多なドキュメンタリーもありますが、松尾さんの映像はそうじゃない。クールだけど、でも何かあるんですよね。どこかにキラリとした物語がある。それをちょっと見せる感じが、すごく素敵だなと思います。 デビューして30年。「サニーデイ・サービス」の物語を紡ぐ、彼らの魅力がぎゅっと詰まった本作。彼らのありのままの姿を観ながら、一緒にこの30年を振り返ってみてはいかがでしょうか。新旧の貴重なライブシーンも観られるので、ぜひ、劇場の大きなスクリーンでご覧ください! ドキュメント サニーデイ・サービス 公開日 / 7月21日(金)よりセンチュリーシネマ他で公開! 監督・撮影・編集 / カンパニー松尾 出演 / サニーデイ・サービス、曽我部恵一、田中 貴、大工原幹雄、丸山晴茂、渡邊文武、藏本真彦、新井 仁、杉浦英治、北沢夏音、やついいちろう、山口保幸、阿部孝明、小宮山雄飛、ワタナベイビー、夏目知幸、安部勇磨 他 ナレーション / 小泉今日子 配給・宣伝 / SPACE SHOWER FILMS 公式サイト / https://films.spaceshower.jp/sunnyday/ ©2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS 映画公開予定スケジュール 7月7日(金)~ 渋谷シネ・クイント(東京) 7月21日(金)~ センチュリーシネマ(名古屋) 7月21日(金)~ 京都みなみ会館(京都) 7月21日(金)~ シネマート心斎橋(大阪) 7月21日(金)~ サツゲキ(北海道) 他
【絶賛公開中!】映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』名古屋での舞台挨拶に主演・坂口健太郎さん、伊藤ちひろ監督が登壇!
4月1日(土)、名古屋駅にあるミッドランドスクエア シネマにて映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』の舞台挨拶付き先行上映会が実施され、主演の坂口健太郎さん、伊藤ちひろ監督が登壇しました。 企画・プロデュースを行定勲さんが務め、監督・脚本を伊藤ちひろさんが担当して制作された、不思議な能力で人々を癒す青年が自分自身の過去と向き合う物語。主演には、伊藤ちひろさんがあて書きしたという坂口健太郎さん。伊藤監督の感性が光る詩的な映像世界の主人公・未山を柔らかな雰囲気で演じます。キャストには、未山の前から姿を消していた元恋人・莉子に齋藤飛鳥さん。未山の恋人・詩織に市川実日子さんと、個性的な俳優陣が脇を固めます。オリジナル脚本で描かれたリアルとファンタジーが混在する「マジックリアリズム」の世界観は必見!舞台挨拶では、本作に込められた思いや撮影時の裏話を語っていただきました。その様子をレポートします。 STORY 目の前に存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口)。身体の不調に悩む人や、トラウマを抱えた人をその不思議な力で癒やし、恋人で看護師の詩織(市川)とその娘・美々(磯村)と静かに暮らしていた。ある日、“隣”に謎の男(浅香)が見え始めた未山は、これまで体感してきたものとは異質なその想いをたどり、遠く離れた東京に行きつく。ミュージシャンとして活躍していたその男は、未山に対して抱えていた感情を明かし、更には元恋人・莉子(齋藤)との間に起きた“ある事件”の顛末を語る。未山は彼を介し、その事件以来会うことがなかった莉子と再会。自らが“置き去りにしてきた過去”と向き合うことに。やがて明かされていく未山の秘密。彼は一体どこから来た何者なのか―。 名古屋に着いてから食べた、天むすがおいしかった ――名古屋にお越しいただきありがとうございます。一言ご挨拶をお願いいたします。 坂口さん みなさん、こんにちは。未山役を演じさせていただきました坂口健太郎です。さっき名古屋駅に着いたんですけど、今日はとっても天気が良くて、こういう気持ちいい時にこういう作品を選んで先行上映会にいらしてくれて、本当にありがたいなと思います。不思議な感覚を持つ映画で不思議な映画体験だったかなと思うんですけど、本日は本作の魅力を少しでも伝えられるような時間にしたいなと思います。よろしくお願い致します。 伊藤監督 今日は本当に坂口くんが言っていたように天気の良い日に映画館に入って、映画を観てくださり、本当にありがとうございます。短い時間ではありますが、上映後とのことで映画の内容についても少し話せたらいいなと思います。よろしくお願い致します。 ――名古屋はお久しぶりでしょうか? 坂口さん 写真集のイベントでお邪魔したりとか、今年もプライベートで友人に会いにきたりしていました。監督はどうですか? 伊藤監督 名古屋はついこの間、1つ前の作品の時にお邪魔させていただきました。 ――名古屋の思い出も教えてください。 坂口さん 鶏?味噌?今日は、さっき着いて天むすをいただきました。おいしかったです。 伊藤監督 名古屋めし、おいしいです。 坂口さん 伊藤監督は、何が好きですか? 伊藤監督 天むすも好きだし、矢場とんもおいしかったし、中華もおいしいし、餃子も食べたいし(笑) 『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、あて書きした坂口健太郎さんから生まれた映画 ――監督は脚本・小説家でもいらっしゃいますが、伊藤監督の初監督作品が実は本作なんですよね? 伊藤監督 元々『サイドバイサイド 隣にいる人』が私にとっての映画初監督になるはずだったんですが、どうしてもきれいな新緑で撮影をしたくて、時期やコロナ禍の影響もあり、撮影が少ずれてしまって2作品目となりました。 ――伊藤監督の初監督作品にお声をかけられて、坂口さんは最初どんなお気持ちだったのでしょうか? 坂口さん 今回は、最初に台本をいただいて初めてのストーリーを知るわけではなく、前段階で監督が坂口くんで映画を撮ろうと思っているんだよねと、まだ題名も決まってないし、未山の存在もまだ生まれてない時から監督とお話をする時間がありました。未山像やストーリーについても監督と話す時間が時々あって、少しだけなんとなく親近感がありました。いざ台本をもらった時には、あえて言語化をしないで、お客さんに委ねるような部分を多く作ろうと意識していました。本作は、目に見えない想いの強さが出てくる作品ですが、ホラーとして撮ってもいないし、当たり前のように未山にとってはそこにいる、そういう捉え方、それがすごく面白いなと最初に台本をいただいた時に思いました。 ――監督は坂口さんにあて書きされたとのことで、お話をしていくうちに未山という人物像ができあがっていったのでしょうか? 伊藤監督 あて書きどころか、坂口健太郎さんから生まれた映画(笑) 坂口さん 僕は未山と全然違いますからね(笑) 伊藤監督 似ている部分はあると思います。特殊能力を持っているところとか(笑) 坂口さん あります、あります!やっぱり僕、すぐわかるんです(笑) ――え!それは、どんな特殊能力ですか? 坂口さん えっと…(笑)!監督があて書きで書いていただいた未山というキャラクターを読んだ時に、監督はこういうふうに僕のことを見える瞬間があるんだなとか、こういう一部分が僕の中にニュアンスとして持っているんだとか、発見でもありましたし、最初はそういうところにびっくりしましたね。 現場に入って共演者さんとお芝居をしてみて、実際の場所に囲まれた時に頭の中で想像していたものとは少しずつ変わってきますし、僕もこういう未山を最初から作ろうと思っていたわけではなく、現場で生まれたことが多かったかもしれないですね。 『ナラタージュ』の小野の役を演じてもらったのがきっかけ ―――監督はあまりお話をするお時間がなかったかなと思いますが、短いお時間の中で坂口さんを観察されていたのでしょうか? 伊藤監督 そうですね(笑) 坂口さん 年末は行定監督とご一緒したり、タイミングが合えばお会いしたりしていましたよね。 伊藤監督 そうですね。坂口さんとは『ナラタージュ』からなので年月的には長いですね。 ―――行定監督の『ナラタージュ』の時に脚本を書かれたんですよね。その時に坂口さんに出会って撮りたいと思ったのでしょうか? 伊藤監督 『ナラタージュ』の小野の役を誰に演じでもらいたいかなって周りの人に聞かれて、坂口健太郎さんにやってもらいたいと、その時は私が言いましたね。 坂口さん それね、何でだったんでしょうか?だって僕は別にそんな…ねぇ?(笑)。『ナラタージュ』を拝見された方はいらっしゃいますか?小野くんね、僕は結構好きなんですよ。 生と死の狭間にいるような感覚で寝てくださいという演出 ――未山は存在しているのか、存在していないのか難しい役どころですよね? 坂口さん 本当に難しかったです。存在をしてくれという演出を監督から言われた時があって、僕は存在しているよ?と思いつつも、ちゃんとそこに存在するということの大切さを投げかけられ、やはりそこはすごく頭を使いました。 寝ているシーンで生と死の狭間にいるような感覚で寝てくださいって監督がおっしゃって、僕はやってみます!って言って‥‥ただ目を瞑っただけだったかもしれないけど(笑)、難しいなと思いました。 伊藤監督 未山ってどこかずっと生と死の狭間をゆらゆらとしている存在なんですよね。寝ている時、もしかしたら目覚めないのかもしれないと思うような寝顔をしていてほしかったんですよ。でも、できていましたよね?みなさん、観てて不安になっちゃいましたよね。 坂口さん 僕はその時、どういうふうに寝たらいいのかなっと思いながら目を瞑っていたと思います(笑)。監督は結構長回しですよね? 伊藤監督 歩くシーンもだいぶいっぱい歩きましたよね。 坂口さん だいぶ歩きましたね。カットがかかってスタート位置に戻るまでめちゃくちゃ時間がかかっていました(笑) 伊藤監督 どこまで歩くんだと、不安になっていましたね(笑) 坂口さん そうそう、どこまで歩くんだろうって。 坂口さんがもし見える人だったとしても、見えないものをそのまま受け入れる人 ――想いが見えている時の未山の演出について、教えてください。 坂口さん やっぱり難しいですよ。最初に監督に草鹿の想いが見えている時って未山はどうなんだろうか、一体どこまで反応したり、どこまでその存在自体に僕がリアクションをとりましょうかって話をしていて、結局未山はどっちでもいい人なんだよねって、いてもいいし、いなくてもいいし。そこでわっというような芝居をするわけでもなく、ただただそこにいるのを受け入れてしまうような感じでした。僕ももしそういう存在がいたら、どっちでもいいんですよね。 伊藤監督 絶対そうでしょ(笑)。そうだと思います。 坂口さん いるならいるでいいし、いないならどっちでもいいかなと。もし見えても、そのまま受け入れちゃいますね。 ――美々ちゃんと坂口さんのシーンがかわいくて、ナチュラルでした。 伊藤監督 彼女も芝居はしているんですけど、芝居し過ぎないように現場でみんなが見守っていました。 坂口さん 監督もあえて当日にセリフを渡したりとかしていましたよね。 伊藤監督 アメリが熱心な子なので、すごく練習しちゃうから。 坂口さん そうそう。練習しちゃいますよね。みんなで遊んでいる時に監督が静かにカメラを回し始めたりとか、僕も彼女のテンションを上げたりする時は未山というよりは坂口健太郎でいるので、カメラが回り始めたと思ったら未山になったり、そういう工夫はあったかもしれないですね。 ――未山と美々が本当に自然で、やっぱりかわいいですよね。 坂口さん かわいいです、とっても!あと、吸収もすごいし、ちょっとしたことが彼女にも伝わる感受性のすごく強い子でした。監督や実日子さんだったりと、現場で伸び伸びと彼女にお芝居をさせていましたね。 伊藤監督 みんなの子どもになっていましたね。未山くんと美々の時間が本当にかわいく撮れて良かったです。私自身も癒されていました。 ロケーションも1つの主役になってくれたぐらい、長野の気持ち良い自然も見どころ ――新緑の季節が素敵で気持ち良さそうでした。撮影はどうでしたか? 坂口さん 気持ち良かったです。本当に気持ち良かった(笑)。空気がやっぱり良かったですよね。今回はもちろん、お芝居も見どころなんですけど、ロケーションも本当に素晴らしかったのでロケーション自体も1つの主役になってくれたような感覚がありました。ロケ場所の決め手は何ですか? 伊藤監督 長野で撮影しましたが、やっぱりあの場所の景色ってなんか神秘的ですごく自然の力と共存している雰囲気がある場所だったので、そこで撮りたいなと思いました。すごく良い所がいっぱいあって、見たことないような景色がたくさん広がっていたんですけど、湖のシーンは大正池で撮影しました。雰囲気がすごかったです。でも寒かったんですよね。 次のページ… 寒くない顔をしていたけど、震えるほど本当に寒かった湖のシーン 寒くない顔をしていたけど、震えるほど本当に寒かった湖のシーン 坂口さん 僕は寒くて景色どころじゃなかったです(笑)。映像ではふわぁとした顔をしているんですけど、本当に寒かった!あの日は。監督がチョイスした未山の衣裳が薄いんですよ(笑)。これは寒いな~と思いながら、寒くない顔をしていましたけど(笑)本当に寒かったんです。 伊藤監督 あんな素肌のような服着てね(笑) 坂口さん あれは着てないようなものですよ(笑) 伊藤監督 着てないね(笑)。あそこは標高も高くてちょうど前日に雨も降っていたりして、あまりにも寒くてスタッフたちはみんなコート着て、震えながらやっているのに、坂口くんは震えることもないし、鳥肌も立たないし、本当にすごいなと思いました。 坂口さん いや、鳥肌は立ってる(笑) 伊藤監督 え!鳥肌立ってたの?(笑) 坂口さん 立ってますよ(笑)。僕もめちゃくちゃ震えていましたよ。 伊藤監督 プロ根性がすごいなと思いました。大事な芝居なので結構何度もやらせてもらってね、本当に頑張ってもらいました。 未山の人生を清算する旅路のような感覚で演じていた ――他の共演者さんの印象なども教えてください。 坂口さん 実日子さんは本作では、陽の部分を請け負ってくれて、飛鳥ちゃんは陰の部分で、未山ももちろんそうなんですけど、やっぱり未山にとっても莉子にとっても、詩織にとってもお互いがいて初めて成立すると言いますか、完璧な人たちではないので、どこか欠けている部分があって、その部分を彼女たちが埋めてくれるような感覚が撮影中はありました。ニュアンスだったりとか、未山の芝居で言うと、相対する役者さんだったりと、未山は変化のあっていい男の子だからと監督が最初におっしゃっていました。 僕は未山像を考えてクランクインしていましたが、逆にそれを一度手放してみて、実際に現場で生まれる空気感だったりと、お芝居を大事にしてみようと思って。実日子さんがお芝居をしている時は、詩織さんといる未山になるし、莉子ちゃんといる時は莉子ちゃんといる未山になるし、僕の未山の捉え方って、彼の語られていない過去の人生だったり、なんとなく清算する旅路のような感覚がありました。 最後のストーリー展開では、未山の中でも大きな落としどころを見つけたんだなという、そんな感覚を持ちながらお芝居をしていたかもしれないですね。 伊藤監督 未山が周りをすごく感じ取る能力があるので、相手に対して相手に合わせたコミュニケーションのとり方をする、それを自然とやってしまう人だったのですが、詩織だけは受け取るものがもう少し大きい。未山が家で着ている服のパーカーは黄色と薄紫色なんですけど、あれは普段着ている服は白いのに、詩織のカーテンの色がまるで染まっているような服にしています。 観る人で捉え方が違って、観る日によっても違う映画になる ――お話を聞いていると隅々まで観たくなりますね。最後に一言お願い致します。 伊藤監督 たくさんの人に観てもらいたいと思っている映画なので、気に入っていただけたら周りの人にちょっと内容は言いづらいかもしれませんが、おすすめして下さるとうれしいです。本日は観ていただき、本当にありがとうございました。 坂口さん 今日はエイプリルフールじゃないですか。なんか言おうかなって、幸せな嘘がつけたらいいなと思っていましが、先にこれ言っちゃうと全然だめですね(笑)。 今日はみなさん、ありがとうございました。この作品は、本当に観る人で捉え方が違うし、観る日によっても違うと思うんですよね。この前、市川実日子さんが初めて観た時と、完成披露試写会の前に観た時とでは、作品に対するイメージが全然違って、違う映画を観ているみたいだったとおっしゃっていて、そんな映画ってなかなかない気がするんです。監督が今回挑戦している説明をあえて省くことだったり、みなさんにこう感じでもらおうとみなさんだけの『サイドバイサイド』ができたらいいなというような気持ちが今の映画界や作品作りにすごく必要なことだなと僕は思っています。ジャンルが明確にある作品ではないので、すすめ方が難しいと思いますが、みなさんの中で今回観た感覚を大事にしていただいて、本作の奇妙さや面白さみたいなところを周りの方々に伝えていただけたらうれしいなと思います。今日はありがとうございました。 いまの自分の隣にいる人、過去に隣にいた人、ずっと隣にいる人など、いまの時代だからこそ大切な人との関係性を改めて考えたい、多くを語らず、受け取る側の気持ち次第で自由に考えられる本作。人と人の距離感や人物の服装の色に心情を反映させるなど、細かく丁寧に描かれたシーンにも注目です。長野の自然たっぷりの景色に癒されながら、この春を彩る切なくも美しい物語をぜひ大きなスクリーンでご覧ください! サイド バイ サイド 隣にいる人 監督・脚本・原案伊藤ちひろ 企画・プロデュース行定勲 音楽小島裕規 ”Yaffle” 主題歌「隣」クボタカイ(ROOFTOP/WARNER MUSIC JAPAN) 出演坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、茅島成美、不破万作、津田寛治、 井口理(King Gnu)、市川実日子 他 公式サイトhttps://happinet-phantom.com/sidebyside/ ©2023『サイド バイ サイド』製作委員会 ※掲載内容は2023年3月時点の情報です
日本福祉大学×映画『ロストケア』公開特別授業に松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者・葉真中顕さんが登壇!
3月24日(金)より絶賛公開中の映画『ロストケア』。第16 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕さんの『ロスト・ケア』を原作にした介護がテーマの社会派エンターテインメントです。監督は、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』、『そして、バトンは渡された』を手がけた前田哲監督。松山ケンイチさんと長澤まさみさんが初共演した、二人の魂がぶつかり合う対峙するシーンにも圧巻です! 介護士でありながら、42人を殺めた殺人犯・斯波宗典に松山ケンイチさん。彼を裁こうとする検事・大友秀美に長澤まさみさん。大友と共に斯波を追う検察事務官の椎名幸太を鈴鹿央士さんが演じ、現代社会の家族のあり方と人の尊厳の意味を問いかける本作。 今回、日本福祉大学の美浜キャンパスにて、映画『ロストケア』を題材に介護について学ぶ公開特別授業を実施。授業には、松山ケンイチさん、長澤まさみさん、鈴鹿央士さん、前田哲監督、原作者・葉真中顕さんが登壇し、20年以上にわたって介護殺人の研究に取り組んできた社会福祉学部の湯原悦子教授と学生さんと共に学びました。 介護問題をリアルに映し出す本作は、フィクションでありながらフィクションで終わらせてはいけない 本作を観た湯原教授のゼミ学生からは、「介護殺人の映画ということで、私自身が13歳から17歳の約4年間在宅介護をしておりまして、映画内での親子の言い争うシーンなど、私の家庭でもわりと日常的にあったので、介護者も被介護者も過剰な演出ではなくて、リアルな家庭の問題を映し出しているなと感じました。介護を経験された方は共感でき、そうでない方も外から見えない家庭の問題を知ってもらうきっかけとなる映画だったと思います」と感想を語りました。 別のゼミ学生からは「この映画はフィクションで終わらせてはいけないと強く感じました。映画の始めにある刑務所の話も実際にあり、映画の中での認知症の問題や、介護の限界は、日本で現実に起こっています。映画で“見えるものと見えないもの”じゃなくて“見たいものと見たくないものがある”とういうセリフが印象的でした。“見たくないもの”こそ、大事なものであって、社会福祉学生としてそういったところに目を向けて、どのような解決方法があるのか、介護されている側もそうですし、介護者が幸せに暮らせるためにどうしたらいいのだろうと、考えていかなければならないと強く感じました」とコメントしました。 介護者の背中を押したり、介護について考えるきっかけに 湯原教授 学生と同年代の鈴鹿さん、コメントを受けていかがでしょうか? 鈴鹿さん 僕よりしっかりと感想を述べていらっしゃるので、しっかりと観ていただいて本当にうれしい気持ちとありがたいなという思いがあります。映画だからフィクションだけど、フィクションでとどめてはいけないと、問題提起にしっかりなっていて、そこまで届いていたんだなと思いました。僕の地元ではまだ実際に介護をしたことがない人が多い世代ですが、介護されたことのある方の背中を押し、介護に触れたことのない人も映画で介護について考えるきっかけになってほしいなと思っていましたので、全て言ってくれました。 湯原教授 若い方々にとっては、高齢者介護の話は聞いていたけれども、自分はそこまで経験ないなって人も多いかなと思います。本学の場合は学生さんの中に介護経験があって、その思いを元に福祉を学びたいと思われた方や、実際にそうなられる方がご兄弟にいて、ご兄弟も介護が必要など、ヤングケアラーとして過ごされてきたという方もいらっしゃいます。鈴鹿さんが今お話ししてくださったように、若い人にこちらの映画を届けることができて、実はあまり知られていない若いケアラーの人たちに対しても非常に世の中の気付きが広まるという点で、すごく意味のあることなんだなと思っております。 湯原教授 特に印象に残ったシーンも教えてください。 鈴鹿さん 綾戸智恵さんが演じられていたように、刑務所に入れてほしい高齢者の方も実際にいるというのを聞いて、あのシーンは撮っていて不思議な感じでした。監督はどうでしたでしょうか? 前田監督 実際にそういう方もいらっしゃるので、あのシーンから本作を始めたいと思っていましたし、そういう方がいらっしゃるということも知っているようで知らない方もいらっしゃいますので、そのように感じてもらえて良かったと思います。 湯原教授 あのシーンは、私もとても印象に残っているシーンで、今作は介護をテーマにした映画ではありますけれども、高齢者問題はそれだけではないです。犯罪をする方も犯罪をしないと生きていけない、そういう何か理由があるのかなと思いを馳せていただけるといいかなと思っております。問題提起ありがとうございます。 次のページ 葉真中先生自身が当事者となり、介護と向き合った経験から生まれたもの 葉真中先生自身が当事者となり、介護と向き合った経験から生まれたもの 湯原教授 葉真中先生の『ロスト・ケア』を原作にした映画ですが、本作を書かれた年代は、高齢者問題として介護保険が導入された後に本当に様々な混乱が起きました。一番大きな介護事業者が突然なくなる事態もあり、とても動いていた時代でした。こちらの作品が生み出される背景に葉真中先生の経験など、どのような思いがあったのか、お聞かせください。 葉真中先生 『ロスト・ケア』がデビュー作となりまして、出版されたのが10年前、執筆していたのは15年ほど前になります。介護問題にものすごく混乱があった時期で、その時に私も家族の介護をする当事者になりました。まだ30代でしたが、何も準備もしていないのに突然やってきました。当事者になってわかったのは、介護と言ってもいろんなレイヤーがあって、しかも当時は日本社会で格差と言われるようになった時代で、そういう格差ってこういうところにくるんだと本当に現場でたくさんの人の事例を見る中で思いました。お金だったり、家族間の密度だったり、ちょっとしたことで同じような状況なのに人と人との間にものすごく格差が開いていて、同じ世代で生まれて、同じくらいの親を持って、同じような病気になったのにAさんとBさんとで天国と地獄みたいになってしまう。そこに業界の混乱が重なって、これはすごいことになっているなと肌で実感しました。当時、これを小説にしようと思って書き始めました。 湯原教授 ありがとうございます。葉真中先生自身が当事者として、この時代に介護に向き合われたということですね。本当に原作の中でも介護の状況がリアルに描かれていて、映画の中でも斯波の介護を通じて胸を痛めたり、いろんなことを考えたりされていたのではないかと思います。 世の中の様々な問題に対して、まずは興味を持ってもらうことが社会を動かす原動力になると信じている 湯原教授 本作を映画化するにあたり、介護以外に高齢者の犯罪の問題もありましたし、大友の父の孤立死という大きな問題提起もありました。 前田哲監督 2013年に原作と出合って、憤りのようなすごく熱い思いを感じ、映画化しなければいけないなと思い、松山さんとやりましょうと話を進めていきました。今でこそ“ヤングケアラー”という言葉も言語化されてきましたけれども、それまでは、知らない間にそういう状況に陥っている人もいたと思います。少しでも社会が良くなるように、誰しもが幸せに暮らしていけるように、映画の力は未知数ですが、映画を観た人が映画を観たことを話題にすることが、一つのきっかけになる。ニュースでも見出しだけで素通りしていた人が内容を読んでみるなど、興味を持ってもらうことがやっぱり社会を動かす原動力になるのではないかと、僕は常に思っています。そのために映画というエンターテインメントの入口が少しでも役に立てるのではないかなと思って、作っています。 湯原教授 世の中のいろんなところで実はいろんな問題があって、苦しんでいる人がいるというところで、私たちはかなり無自覚なのかもしれません。無自覚でも生きてはいけるのだけれども、本当にそれでいいのかなと、それを投げかけるのは私たちのような研究者の役割の一つでもありますが、なかなか人々に届かないところもあります。私も研究テーマについてお話をさせていただいておりますが、やはり来ていただく方はある程度関心がある人になってしまいます。それだけでは社会は変わらない。この映画で素晴らしい演技をされるみなさまが出てくださったことで、今まで介護問題に対して目を向けてこなかった人にも注目していただけるきっかけになったと思います。この問題に対して、私宛の問い合わせも多くなり、それも一つ社会の動きとして大きく、影響力を感じでおります。 湯原教授 さらに介護殺人について掘り下げていきたいと思います。ゲストのみなさまもよろしいでしょうか? 松山さん 大丈夫です! 湯原教授 松山さん、ご協力ありがとうございます。もし私のゼミでしたら、ゼミ長に指名したいです(笑) 次のページ 介護の限界を迎えた斯波に対して司法は何ができるのか、とても難しい問題 介護の限界を迎えた斯波に対して司法は何ができるのか、とても難しい問題 湯原教授 長澤さんは、検事の大友役を通じてこの問題をどう考えればいいのか?映画の主題歌にもなっている“そうであろう”という意味の「さもありなん」という言葉もありますが、本当にそうでいいのか?検事の貫く正義を問いかけてくださっていました。斯波に対して、どのような刑罰が必要かと考えられますか? 長澤さん とっても難しい質問ですが、斯波がした行為というのは、やはり許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるということは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身が自分の犯したことに対して、これは“救い”だと、彼の正義を元に語っていて、法的な刑罰を与えても、斯波にとって罰として捉えられるのが難しそうに思います。斯波自身も父親を憎んでいたわけではなくて、すごく大切にしていた存在であったからこそという、彼の正義があるという部分もまた難しくて、斯波と同じような事件が年々増えているようなことを聞くと、やはり解決するにはとても難しい問題だなと思います。 そういったところも踏まえて、悪いことをしたから罰を与えるだけではない考えを、今後考えていかなくてはいけないのかなと思いました。一言でこうしたほうがいいというようなはっきりとした答えは言えないですが、そういったこともまた変わっていくのかなと思いますので、都度考えていかなくはいけないなと思いました。 湯原教授 ありがとうございます。本当にすごく難しいことを聞いてしまったなと思いますが、斯波は“救い”だと語っていて、自分のしたことに対して、罪悪感を表に出していません。原作でも繰り返し問われている部分になっていて、斯波がこのままかなり重い刑でずっと刑務所にいるようなことがあった場合に、斯波はこの時間をどう過ごすのか、どういうふうに居続けるのかとも思います。司法が斯波に対して、何ができるのか、本当に長澤さんがおっしゃったように難しい問題で、個別に考えていかなければならない問題だと思います。 みなさんは映画を観たので、斯波の背景を知り、考えを知り、その中で考えているかと思います。でも先ほど新聞の話もありましたが、新聞ではやったことや内容があり、それに対してこういうことになったという情報だけなので、その背景にも目を向けてほしいと思います。 介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、救われる命が増える可能性がある 湯原教授 松山さんは、プロセスをたどりながら、愛する父親に対して犯行を行い、“救い”という考え方で犯行を重ねていく役でした。介護者が直面する困難が様々な角度から描かれていて、特にここが大事だとか、みなさんにぜひ知ってもらいたいとシーンを教えてください。 松山さん 異常者ではないというのを大事に、斯波はみなさんと何も変わらない、僕とも変わらないということをすごく意識しました。柄本明さんが演じるお父さんと斯波は、母親や親族もいない親子で孤立化しやすい状況ではあったのですが、小さい頃から男手一つで育ててきてもらったのだから、今度は自分が返す番だと一生懸命介護をしていく。その中で限界がきてしまって、選択肢の一つでもあった生活保護を申請しに行くが断られてしまう。そこで残った選択肢というのが、柄本さんが伝えていた「自分を殺してくれ」という言葉だった。 外側から見ていると、法律やルール、社会の常識でしか物事が見づらいので、事件ということだけを見て、何でこんなことになったんだろう、誰か助けてあげれば良かったじゃない、助けを求めれば良かったじゃないと、思ってしまうと思いますが、そうではない状況が内側にあります。立場によって見ている景色が全く違うんですよね。それを防ぐために斯波ができたことは、誰かとこの話を共有する、介護をしていることを共有することだったり、どういったセーフティーネットがあるのか調べることだったりと、選択肢を持っといてほしかったなと僕は思いますね。 ただ、それも結局余裕のある人ができて、余裕がなければそれすらもできない、本当に今目の前にあるお父さんの介護で精一杯になってしまう。ある意味子育ても一緒だったりすると思います。周りの人たちが孤立化させないというのもまた一つ大切になってくる。 みなさんも介護の経験をされたりとか、これから介護の仕事に関わってくることになるかもしれませんが、こういう素晴らしい大学で学んでいらっしゃるみなさんですから、知識を持って目の前にある介護の課題をたくさんの人と共有していくことで、介護する側も介護される側も救われる命が増える可能性があります。学んだ人だけが見えている問題ではなくて、たくさんの人が見ていかなくていけない課題で、そういうところが大事だと思いました。 湯原教授 ありがとうございます。本当に異常さがないというところは大事なことで、私も何人もの介護殺人の加害者の方に出会ってきましたが、みんな一生懸命に介護しようと思っていて、普通の生活をしていたけど、こうなってしまったという人でした。私もこの斯波が誰かと共有できる人がいたら良かったなと観ていてつくづく思いました。最後にスライドでまとめたいと思います。 一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えること ――斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。 湯原教授 まず、斯波の第一の事件を防ぐとしたら、どんなことで防ぐことができたのか。介護殺人の中でも防げる事件と防げない事件があると思っています。今回のこの事件は非常に難しいです。なぜかと言うと、斯波はできる限りの努力をし尽くしていた。介護殺人の法廷でも「自分は精一杯できることをやったので、一体何を反省したらいいのかわからない」と述べる被告がかなりいます。父親が息子へ殺してくれと頼んでいる。介護当事者の努力による状況打開は見込めない、父親がいくら努力しようともこの状況が良くなったかと問われると非常に難しいと思います。 かなり貧困な状況でしたので、介護サービスを使うことに関してもサービスの利用料が払えない状況で、使用できなかったのではないかと。高齢者への虐待防止法、障害者への虐待防止法などもあり、もし斯波が虐待していて通報されていたら、外部の支援が入りました。でも今作では、そういうことはしていないため、孤立していったのだと思います。唯一斯波が助けを求めたのは、生活保護の申請へ行った時、この時に斯波は助けを求めていました。でも、あなたは働けるでしょと言われてしまった。生活保護の行政からしたらしょうがなかったと言われるかもしれませんが、ここでみなさんにぜひお願いしたい。支援者としてこういった方をサポートする時は、目の前にいる人の背景にぜひ思いを馳せてください。なぜ働ける人はここにいるのかなど。介護者が力尽きないようにする、私は支援者として行った斯波のケアはとても素晴らしいと思いました。自分がやってもらえなかったことをやっている。葬儀での介護者への言葉がけもよく頑張られました。これは介護者としてかけてもらいたい言葉だなと思います。 そして、要介護者のみならず、介護者への支援が必要だということをぜひわかっていただきたいと思います。介護者自身の健康は大丈夫か。きっと斯波もこの介護が始まる前は東京で働いていた普通の若者だったんでしょう。介護者が大切にしたい自分の時間や大切な人と過ごす時間のためにも、良くなってほしいなと思います。介護者自身の人生、例えば、あのままお父さんを看取ったとしても斯波は仕事をしていないし、お金も持っていません。これからどうやって生活していくのか、とても辛い状況であります。それもぜひ気にかけるということが必要です。 介護者を支援するための法律は、全国的なものは今はまだないのですが、条例が立ち上がっています。何よりも大切なのは、このような高齢者の調査、介護者支援が充実する法的なものもさるものながら、一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持ち、個として考えることです。今回の『ロストケア』でメッセージを伝えることができ、本当に期待しています。みなさま、ありがとうございました。 映画『ロストケア』を通して、高齢者問題や介護殺人など、どう向き合っていくべきなのかと公開特別授業で呼びかけました。校内には、大きなパネルも設置され、公開特別授業後には多くの人が撮影する場面も。今後の課題として、介護問題について深く考えることのできる授業となりました。決して他人事はない、今考えるべき社会問題に向き合った衝撃の感動作。柄本明さんが演じる父と、斯波の迫真に迫る親子の葛藤するシーンにも注目です。目を背けず、社会問題としっかり向き合う本作をぜひ劇場でご覧ください。 STORY 早朝の民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、介護家族に慕われる献身的な介護士・斯波(松山)だった。検事の大友(長澤)は、斯波が勤める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの死者が40人を超えることを突き止める。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。斯波は自分のしたことは「殺人」ではなく「救い」だと主張する。彼が多くの老人を殺めた理由や、彼が言う「救い」の真意とは何なのか?そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく―。 ロストケア ミッドランドスクエア シネマ他で絶賛公開中! 監督 / 前田哲 原作 / 葉真中顕「ロスト・ケア」(光文社文庫刊) 主題歌 / 森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック) 出演 / 松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、岩谷健司、井上肇、綾戸智恵、梶原善、藤田弓子、柄本 明 他 公式サイト / https://lost-care.com/ ©2023「ロストケア」製作委員会 ※掲載内容は2023年3月時点の情報です
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